東京地方裁判所 昭和25年(ワ)2251号 判決
原告 村越喜市 外二十五名
被告 東京都
一、主 文
原告等の本訴請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告等の連帶負担とする。
二、請求の趣旨
原告等訴訟代理人は、
「被告が
(一) 昭和二十四年九月十七日原告村越喜市、同牧野松太郎、同皆川秋次郎、同櫻井陽司、同中村信廣、同柚木満丸、同磯部良雄、同峰岸新三郎、同荻原常太郎、同成田重一、同木内千藏、同齋藤專十郎、同佐藤二平次、同船木正一、同齋藤專十郎、同鈴木徳藏、同毛利博、同森保に対し、
(二) 同年六月六日、原告吉田利光、同大塚正二、同今井桂助、同加藤千輔、同齋藤爲雄、同町田一吉、同堀越廣光、同井上芳夫に対し、それぞれなした解雇の意思表示は、いずれも無効であることを確認する。
訴訟費用は、被告の負担とする。」
との判決及び予備的に、
「一、被告と、右請求の趣旨(一)項記載の原告等とのあいだに、昭和二十四年九月十七日まで存在していた労働契約関係は、いずれも同日より現在まで存続していることを確認する。
二、被告と右請求の趣旨(二)項記載の原告等とのあいだに、昭和二十四年六月六日まで存続していた労働契約関係は、いずれも同日より現在まで存続していることを確認する。」
との判決を求めた。
三、事 実
原告等訴訟代理人は、その請求の原因として陳述した事実の要旨はつぎのとおりである。
一、原告等は、いずれも被告に雇用せられ、交通局に勤務し被告の経営する交通事業の現業員として、電車又は自動車の運轉手、車掌又は技工等の業務に從事してきたものであり、同時に、右交通局勤務の労働者を以て組織されている東京交通労働組合の組合員である。
二、しかるに、被告は、昭和二十四年九月十七日、申請の趣旨(一)項記載の原告等に対し「東京都職員定数條令」に基く人員整理として解雇する旨の意思表示をなした。
三、しかしながら、右解雇はつぎに述べる事由によつて無効である。
(一) 不当労働行爲
右解雇は、被告が右東京交通労働組合の弱体化をはかるため右組合の役員又は組合員として活溌な組合活動をしてきた原告等をその組合活動のゆえに解雇したものであるから、不当労働行爲である。
(二) 整理基準違反
被告は、前記東京都職員定数條令に基く人員整理を行うに際し、整理基準として、
(イ) 満六十歳以上のもの。(特別の事由あるものを除く)
(ロ) 執務能率の著しく低いもの。
(ハ) 勤務成績が不良のもの。
(ニ) 正当の理由なく欠勤の多いもの。
(ホ) この際退職を願い出たもの。
の五項目を定め、これによつて解雇を行つたのであるが原告等はそのいずれの基準にも該当しない。これは、原告等が大多数日本共産党員又はその同調者であるので、被告はこれを原因として解雇したものにほかならない。しかるにかかる解雇は憲法第一四條労働基準法第三條に違反して無効である。
(三) 労働協約違反
前記東京交通労働組合の上部団体である東京都労働組合連合会と被告とのあいだには昭和二十一年十一月三十日締結せられた労働協約があり、右協約は本件解雇の行われた昭和二十四年九月十七日当時なお有効に存続していたのであるが右協約には、
「第四條甲(東京都長官)は組合員の賃金(その他の給與を含む)労働時間、休日、休暇、採用、解職其の他待遇諸條件の改変については、乙(東京都労働組合連合会)と協議決定の上これを行う。」
との條項がある。
更に昭和二十四年九月十三日前記東京都労働組合連合会が前記條令の実施の公正を期せしめるため、被告と団体交渉を行つた際被告を代表した大木副知事は、右連合会に対し、
(イ) 前記整理基準を嚴守すること。
(ロ) 基準実施に当つてはあらかじめ右連合会の下部機関と十分協議を行い、一方的な措置をとらないこと。
(ハ) 性別、政党関係、組合活動を理由に差別的取扱はしないこと。
を確約した。
しかるに、被告は、何ら東京都労働組合連合会又は東京交通労働組合と協議することなく本件解雇を行つたものであるからそれは右協約に違反して無効である。
三、又被告は、昭和二十四年六月六日、申請の趣旨(二)項記載の原告に対し同原告等が同年五月三十一日及び同年六月二日ストライキを行つたことを理由に解雇する旨の意思表示をなした。
しかしながら右解雇はつぎの理由により無効である。
(一) 不当労働行爲
右解雇は右原告等が正当な組合活動(ストライキ)を行つたことを理由とするものであるから、不当労働行爲として無効である。
(二) 手続規定違反
右解雇は、懲戒処分として行われたものであるにもかかわらず、地方自治法施行規程の定める懲戒委員会の審査及び議決を経ずして行われているのであるからそれは無効である。
(三) 労働協約違反
被告は右解雇につき、前記東京都労働組合連合会と協議していないのであるから右連合会とのあいだの前記労働協約第四條に違反して無効である。
四、而して、原告櫻井陽司は、東京都吏員、その他の原告は東京都の雇員又は傭員であるが、東京都交通局の業務は、日本国有鉄道のそれと同種のものであつて、その経営における労働関係は実質上公共企業体労働関係法の対象と同じく私法上の関係と見るべきであり、それゆえ、本件解雇の意思表示を行政廳の処分となすことは誤りである。
ところで、被告は、本件解雇がいずれも有効であることを主張するので原告等はその無効なることの確認を求めるため、本訴に及んだしだいである。
五、(一) 仮に本件解雇が行政処分であるとしても、本件解雇はさきに述べたように不当労働行爲として憲法第二八條に違反して無効であるのみならず更に本件解雇はいずれも原告等が日本共産党員又は同党の支持者であることを理由としてなされたものであるから、憲法第一四條、第一九條、第二一條等に違反して無効である。
(二) かくて本件解雇当時被告と原告等各人とのあいだに存在していた労働契約関係は、同日以後現在にいたるまで依然として存続しているものといわなければならない。
(三) しかるに、被告は、右労働契約関係の存続を否認しているので、その存続の確認を予備的に求めるものである。
被告訴訟代理人は、
「原告等の本訴請求並びに予備的請求は、いずれもこれを棄却する」との判決を求め本件解雇はいずれも被告が行政処分としてこれをなしたものであり、從つてこの処分に重大且つ明白な瑕疵がない限り当然無効ということはあり得ないのであるが本件解雇には何ら明白な瑕疵がないからそれが絶対無効であるとはいい得ない、と述べた。
四、理 由
一、原告の本訴請求は結局原告等と被告とのあいだに雇用契約関係(労働契約関係)の存在することの確認を求め、その理由として、
(一) 本件解雇の意思表示は「私法上の」無効な意思表示であること。
(二) 仮に本件解雇が行政処分であるとしても、それは不当労働行爲又は思想信條を理由とする差別待遇として憲法に違反し絶対に無効であること。
を主張するに在るのでまず本訴請求が行政訴訟事件であるか否か及びいわゆる抗告訴訟たるべきであるか否かの点を判断する。けだし後に判断するように本訴請求につき解雇処分取消の要否の問題が存するからである。
二、第一に被告が昭和二十四年六月六日及び同年九月十七日原告等に対してなした解雇の意思表示の性質について判断する。
原告等主張の事実によれば原告等はいずれも被告の経営する交通事業の現業員たる吏員又は雇傭員である。
おもうに被告交通局の業務が日本国有鉄道の業務とその実体を同じくし、後者における労働関係が公法上の法律関係ではないからといつて、そのことがそのまま前者の労働関係についても妥当するということはできない。すなわち訴訟法上の取扱いにおいてはその実体が実定法上いかに規定せられているかを考察しなければならないのである。
しかるに昭和二十三年勅令第二百一号の規定により地方公務員は吏員たると雇傭員たるとを問わず、地方自治体の長と上下服從の公法関係に立つにいたつたと解すべきところその担当する業務が行政事務であるか又は本件のように交通の現業業務であるかによつて何等の差別を認めていないのであるから本件原告等の服務関係は、公法上の法律関係であり、これを訴訟物とする本訴は行政訴訟事件であるといわざるを得ないのである。
三、そこで次に本件解雇の意思表示が絶対無効と判断せられるか否かを考察する。
おもうに、特定の行政行爲が権限ある行政廳又は裁判所による取消をまつまでもなく当然無効とせられるがためには、その行爲に内在する瑕疵が重要な法規違反であつて、且つ、その存在が外観上明白であることを要すると解すべきである。しかるに本件解雇の意思表示が不当労働行爲であるか否か又は原告等の思想信條を理由とする差別待遇であるか否かということは、愼重な審議を経てはじめて決定せらるべきことがらであるから、本件解雇が仮に原告主張の理由によつて無効となり得るとしてもそれが当然無効であるということはできない。
四、從つて、原告等が現に被告とのあいだに雇用関係の存在することの確認を求めるためには、その前提として、本件解雇処分の取消を求めなければならぬ訳であるが、本件請求はその前提要件を欠くから、この点において、すでに失当であるといわなければならない。
仍て原告等の本訴請求は、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十三條第一項但書を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 柳川眞佐夫 中島一郎 高島良一)